家族信託を利用して実家を賃貸に出す方法
⇒『家族信託された実家の不動産を売却する手続方法とは』
子と同居していない親が高齢であった場合、ひとりは何かと不安だから、と施設に入居する事は、よく耳にする話ではあります。
その際に親子で家族信託契約を結んでおくことで、不測の事態が発生した際にも受託者となった子が対応でき、実家を売却する事も出来ます。
とはいえ立地や家屋の規模・築年数・戸建てかマンションかなどなどご家庭により様々ですし、中には、首都圏の好立地で先祖代々の土地だから先々を考えると売却するには勿体ない、今は未だ住めないがゆくゆくは自分達や子供達が利用する予定だ、等の理由から売却という選択肢が外れる事もあります。
しかし誰も住んでいない状態の実家に固定資産税がかかり続けているという状況は、いささか勿体ないですし、地価によってはかなりの負担になり得るでしょう。
そのような事情から実家を『賃貸』に出す事を検討するケースもあります。
今回は、信託財産である実家を賃貸に出す際の手続きと注意点について取り上げていきます。
目次
1.賃貸に関する基礎知識
そもそも不動産の売買と賃貸は何がどのように違うのでしょうか。
端的に言えば、不動産の売買では登記申請があり、買主に所有権が移転します。
一方で賃貸は借家契約であり、登記制度はあるものの、一般的には登記申請はしません。
ですので、所有権はあくまでも元々の所有者のままで動きません。
しかし売買にしても賃貸にしても、それぞれ契約時に当事者の意思確認が求められます。
よって今回のように実家の賃貸をするという認知症対策の観点からすると、予め家族信託によって不動産(実家)を信託財産としておくことは必須となるでしょう。
信託条項に賃貸に関する手続き、運用等の取り決めを入れておくことで、その後の契約行為に関する手続きを受託者がする事が出来ます。
普通借家契約と定期借家契約の違い
ところで賃貸契約には2種類存在する事をご存知でしたか。
賃貸会社のサイト等で物件を見ていると、契約事項の欄に、『普通借家契約』、または『定期借家契約』との記載があります。
賃貸借契約ではその性質上、貸主の方が借主より立場上優位が起きてしまうため、普通借家契約は借主の立場を保護する立場にあります。
しかし貸主側からしてみると、短期間での賃貸が出来ない事や、他の住人に迷惑をかけるような借主の廃除ができない事、賃料改定の提案が出来ない事など、何かと不都合が多かったという背景により、平成12年3月1日より定期借家制度が新設されました。
なお、それ以前に締結された借家契約に関しては、借主保護の観点から、借主と物件が変わらない限りは定期借家契約への切り替えは認められていません。
深く掘り下げていくとかなり複雑な事情が絡み合ってきますので、ここではざっくりと解説していきます。それぞれの特徴は以下のとおりです。
普通借家契約の特徴
一般的な借家契約で、多くの賃貸契約はこの契約形態を採用しています。
特徴として以下のものが挙げられます。
・契約方法は通常書面で行うが、法的には書面でも口頭でも契約が成立する。
・契約期間を1年未満とする契約は期間の定めのない賃貸借契約とみなされるため、通常は2年契約とするものが多い。
・契約更新に関して、貸主は正当事由がない限り契約更新を拒絶できない。
※借主が更新したくない場合は契約更新されず終了する。
・中途解約に関して、借主からの場合は特約があればそれに従う。
※一般的には貸主・借主ともに数ヶ月前からの申し入れで解約する内容の特約があるが、貸主の場合、借主の合意が得られないときは正当事由が必要となる。
定期借家契約の特徴
契約で定めた期間で確定的に契約終了となる借家契約形態です。
特徴として以下のものが挙げられます。
・契約方法は書面による契約が必須となる。
※要件として、『更新がない事、期間満了により契約が終了する事』を記した書面を予め交付する必要がある為、実務上は公正証書にて契約締結されることが通常。
また、書面を交付して説明しなかった場合は従来の普通借家契約として扱われる。
・契約期間を1年未満とする事が可能。1年以上の契約期間の場合、貸主から借主に対し、契約終了の6ヶ月前までに契約終了する旨の通知をする必要がある。
・契約更新に関して、更新制度の無い契約であるため、期間終了とともに契約終了となる。
※更新したい場合、契約終了後に再度契約する必要がある。
・中途解約に関して、貸主からの解約は原則できない。
※借主からの場合、「床面積200㎡未満の居住用建物で、転勤・療養・親族の介護等のやむを得ない事情により、自己の生活の本拠として使用する事が困難である」場合に限り、中途解約が可能となる。
それ以外の場合は特約があればそれに従う。
2.家族信託での実家賃貸なら定期借家契約が有利
家族信託で信託財産の実家を賃貸に出す場合、途中で受益者が変更になる場合や、信託終了により帰属権利者へ帰属するという性質を考慮すると、定期借家契約を選択するのが妥当と言えるでしょう。
期間満了により、契約が当然に終了する事で、以下の効果が期待できます。
◎高額な立退料が不要(正当事由が不要なため、保管する立退料も不要)
◎不良賃借人を排除できる(賃料不払い等、悪質な賃借人との再契約防止)
◎適正賃料への改定が容易となる(再契約時の賃料改定の打診)
◎建て替え計画がスムーズに進む(普通借家だと理由があっても正当事由・立退料が必要となる)
但し貸主側にとって魅力的な契約形態である反面、借主からしてみればデメリットが多く、長期間、期限なしで賃貸したい借主は普通借家契約を選ぶケースがほとんどのようです。
そのため、定期借家契約で賃貸に出す場合、相場より賃料を低く設定して金銭的メリットで差別化する等の工夫が必要となるようです。
3.実際に賃貸に出す際の手続き
受託者が相当に不動産に詳しい方でない限り、不動産の賃貸業者に依頼するケースがほとんどでしょう。
依頼する業務は以下のようなものがあります。
●入居者の募集
●賃料や敷金の授受・管理
●入居者の苦情対応
●契約違反の対応
●物件の清掃・メンテナンス
●設備の修理
●更新の手続き
●退去時の立会い・修繕箇所の確認
●退去時の金銭の精算
●退去後のクリーニングや修繕
●室内のリフォーム
●修繕の費用積立
※その他諸々については割愛
実際に業者に依頼する際には、何をどこまで依頼するか検討しておきましょう。
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